野中教授のレポート

投稿日:2011年5月8日 投稿者:sot

■放射能の問題に立ち向かう

 

今度のシンポジウムで「農業と土」というタイトルで講演をいただく新潟大学の土壌環境を研究されている野中教授からレポートをいただきました。今回の震災で最も懸念されている問題は、原子力発電の有用性であり、原子力に頼ってきた私たちの生活の有り様そのものです。今、苦しまれている生活者の皆様、風評被害に会っている第一次産業の皆様には、言葉にできないほどの悔しさがあると思います。どうしてなんだと叫びたくなるような事態だと思います。私たちに出来ることはせめても、正しい知識と風評に負けない勇気であると思っています。ここの野中教授からのレポートを添付します。(岡部)

 

 

放射能と一次産業

 

新潟大学・自然科学系

 

教授    野中昌法

 

福島原発事故による放射能核種の環境への放出と農業に与える影響を考えてみました。

 

1950年代から1960年代においてソ連、アメリカ、中国等の原水爆実験で日本には多くの核種が落ちてきました。そのころ、新潟大学土壌学研究室も含めて土壌中の挙動と作物への影響について研究が行われました。東大の研究も含めてのその当時からの知見の紹介です。

 

ウランが核分裂すると今回問題となっているヨウ素131、セシウム137、ストロンチウム90などが生成されます。化学の教科書の元素の周期表を見ると判りますが、ヨウ素131(第17族)は崩壊してとなりの元素キセノン(第18族)となり、その時γ線を放出します。同じようにセシウム137(第1族)はバリウム(第2族)となりγ線を放出します。ストロンチウム90(第2族)はイットリウム(第3属)となりβ線を放出します。毎秒1回崩壊すると1ベクレル(Bq)と呼んでいます。このベクレルはウランの放射能を発見したフランス人の名前に由来しています。つまりベクレルが多いと1秒間に放出されるγ線やベータ線が多くなります。

 

半減期はヨウ素131の元素集団がキノセンに変わり、異なる元素となるまでの時間で、ヨウ素131の場合は8日で半分となります。

 

また、作物にとって大切な土壌からの養分吸収を考えると、セシウムは第1族でカリウムと同じ属です。ストロンチウムは第2族でカルシウムと同じ属です。したがって、それぞれ1価、2価の+(陽イオン)を持ちます。土壌の粒子や有機物は多くのマイナスイオンを持ちます。つまり、+のイオンを保持する能力を持っています。これら土壌に保持された+イオンの元素は植物の根から吸収されます。基本的に同じ属の金属元素は土壌中で似ている挙動を示すと言えるでしょう。

 

これら基本知識をもとにそれぞれ、土壌や作物への影響を考えてみます。

 

①ヨウ素131はガンマー線ですが、半減期は8日ですので、土壌への長期蓄積はありません。

 

現在の汚染は降下物としての農作物への付着だけです。

 

②セシウム137はガンマー線ですが、半減期は30年です。土壌中では水には溶けにくく、土壌中に50~70%保持されます。土壌中では動きにくいですが、カリウムがあると置換されやすく、作物への移行を抑制できます。原子の周期表ではカリウムとセシウムは同じ第1族で挙動が似ています。土壌中では表層土壌に蓄積すると考えられます。

 

カリウムは体内では腎臓を通して尿から排出されやすいようにセシウムも体内から排出されますがガンマー線ですので細胞や染色体に影響を与えることに変わりはありません。

 

③ストロンチウム90はベータ線で、半減期は28.9年です。事故発生直後から環境中に放出されていたとみられますが、土壌から検出されたのは約1カ月後です。ベータ線は測定に時間がかかるために遅れたこともありますが、ヨウ素131、セシウム137と比べて重いために拡散が遅れます。ストロンチウムは同じ2族のカルシウムと置換されやすいです。したがって、土壌中ではカルシウムがあると作物への吸収は抑制されます。また、土壌の中で20~30%が水に溶けて、下層土壌への移行と作物への吸収がセシウム137と比べてひと桁大きいです。

 

人間の体内に入るとセシウムより危険です。なぜなら、カルシウムと同じ挙動を示すので、カルシウムと交換して骨に蓄積してベータ線を出し続けます。骨細胞を破壊してガンになり易くなります。

 

畑作物の場合、土壌中に蓄積したセシウム137の吸収率は0.05%以下と考えられますが、イネの場合は湛水状態で0.1%~1.0%程度まで高くなるようです(今回の農林水産省では土壌1Kgに蓄積したセシウムが1000分の1=0.1%がイネに吸収されるとして係数を0.1としています)。ただし、先にも書きましたが土壌中のカリウムイオンと置換されて、カリウムがセシウム137の作物への吸収を阻害すると考えられます。有機農業のように長年有機物を投入して+イオンの保持能力を上げた土壌でもセシウム137の吸収を抑制する作用があると思います。ストロンチウム90はセシウム137と比べて、作物への吸収量は一桁多くなるようです。この吸収も土壌中の有機物で抑制できると思います。

 

今後、稲作を行う場合、土壌中の核種だけでなく、集水域から農業用水に含まれる核種も問題となります。活性炭・ゼオライト、みなぐちのビオトープである程度、除去可能かと思います。

 

現在大気中から降下してくる核種はカバープラントで付着させて、土壌中への蓄積を少なくすることが大切です。また、土壌を耕起しないことも大切です。セシウム137は土壌表層だけに蓄積していると思いますので、農作業による土壌粒子の舞い上がりによる汚染に気をつけなければなりません。

 

チェルノブイリでは菜の花で植物除去を行っていますが、これも栽培・収穫時に作業する人が完全防御服で行っています。この点についてはセシウムやストロンチウムがミツバチを通して花粉から拡散しているとの論文が多くあります。また、アカザ科やキク科の植物の吸収が良いことを示す論文も多くあります。土壌汚染程度が低い地域では有効でしょう。

 

セシウム137とストロンチウム90が土壌に蓄積した場合、土壌表層の入れ替えしかないと思いますが、どの程度で入れ替えが必要か今後の課題です。

 

森林土壌に上記2核種が蓄積した場合、きのこに濃縮蓄積されやすいので露地栽培きのこは気をつけなければなりません。

 

さらに、牧草地では地上部に蓄積させて刈り取り除去をすることしか手がないと思います。

 

最後に強調したいのは汚染土壌の分布です。風向き、地形により異なります。関係市町村でも場所により汚染の程度が異なるはずです。きめ細かなモニタリングで安全である場所と汚染場所の詳細な情報を公開して、予測可能ですので対策を早く行い、特定の地域や福島県全域が汚染されているような情報を出すことは良くないと思います。風評に惑わされないようにしましょう。

 

これから農作業が始まる時期になり、私たちにできることはなにか?

 

中越地震の時、原発が火事になっただけで、柏崎の有機栽培農家は風評被害で2年間苦労したと話していました。

 

私たち消費者も含めて皆さんで、正確な知識をもとに真剣に考えて、農家を応援しましょう。

 

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