東北シェフの活動3

投稿日:2011年5月23日 投稿者:sot

■「“食料”から“食事”へ」

 

かとうレポート5

 

5月23日。
ロレオールの伊藤シェフが向かったのは
陸前高田のリアス式海岸の半島にある長泂(ながほら)という地区。
この日は炊き出しではなく、“出張料理”です。

 

ひと月ほど前、この被災地に住む方でロレオールに食事をしにやってきた親子がいました。
地震からひと月たって、気分を何かかえることをしたいと伊藤シェフの店を訪ねたのです。
自分の店を選んでくれたことに感激した伊藤シェフは親子が暮らす被災地にいくことを約束しました。

 

震災から2ヶ月がすぎた今、被災地に求められるのは生きるための食料ではなく、“食事”。
食べるものが無い、という最悪の状況は過ぎ去りました。
しかし選択肢があって食べたいものを食べるという普段はごく当たり前のことを、
今はまだかなえられないのです。

 

「おいしかった。」と思ってもらえるようなひと時を作ってあげたいという思いで考えたメニューは、
ほろほろ鳥のグリル、野菜サラダ、ピラフ、野菜たっぷりポタージュです。
そこに中目黒の聖林館から提供していただいたピザ生地で焼いたパンを添え、
モンサンクレールの辻口さんから届いた和ラスクをデザートに。
さらに子供には宮崎県の生産者から届いたマンゴーゼリーをつけました。

 

この日の食数は230人前です。
訪れた場所は、流されずにすんだお宅に数家族が避難して一緒に暮らしているというエリア。
中には自宅が流されずにすんだという方もいます。
とはいえ半壊したままという家も多数で、
最近ようやく水道が通ったそうですが、まだ飲める水では無いそう。
それでもようやくお風呂に入れるようになったと言っていました。

 

南部鉄器の鉄板に、ほろほろ鳥の肉をのせ、
香ばしい香りと美味しそうな音がしてくると、
既に集まっていた近所の子供達も待ちきれない様子で
「こういうの、ずうっと食べてないよ。」と嬉しそうな様子。
聞くと震災以来、おかずでお肉を食べるのは初めてだそう。

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↑ 嬉しくて思わずパチリ                          ↑ 肉汁がジューシーな、ほろほろ鳥のグリル

 

味わい深いほろほろ鳥は南部鉄器の鉄板で焼きます。
鉄器が熱を十分蓄えるので、表面はカリカリで中はふっくらとジューシーに焼き上がります。
味付けは“宮古(被災地)の塩”のみで十分。

 

伊藤シェフの塩をふる姿がかっこよくうつったらしく、
小学生の男の子が塩に関心を持ち、なめてみたいと言いました。
シェフが差し出した塩をなめてひと言、
「いつもの塩とちが〜う!」
周りにいた大人達もびっくりで、この子は将来シェフになるよ、とみんなで盛り上がった場面も。

 

「被災地では外食するお店もなく、なかなか他の地域に食事に行けるような
状況でもありません。
今回のような地域と、大規模な避難所は状況が違いますが、今後仮説住宅へ移る方が増えると、
同じような形で出張料理的なものが必要になってくると思います。
このような機会で食を楽しんでもらいながら、これからの復興の道のりを歩み始める皆様の
活力となっていただけたら幸いです。」(伊藤シェフ)

 

(かとう)

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