成熟した鰹は秋にやってくる
三陸の鰹の旬は秋
「目には青葉山ほととぎす初鰹」と江戸中期の俳人山口素堂の句に詠まれている様に五月は初鰹の季節。「女房を質に入れても食べたい初鰹」などというほど、初物好きの江戸人は好んで食べたと言います。しかし、三陸人にとって、鰹の旬は秋。もともとは南国の魚である鰹は、いわしを追い求め北上し、南下する秋頃に、北の海域でたくさんの餌を食べて脂がのった成熟した大人の戻り鰹になるのです。
三陸沖で漁獲された戻り鰹は、直火で表面を炙り、旨味を閉じ込めます。生姜やニンニクなどの薬味が不要なほどその身は、臭みがありません。その脂は鮪のトロにも匹敵するものです。
■主な産地/三陸沖
■水揚げ最盛期/9~10月
■生態と特徴
スズキ目サバ科カツオ属の魚。鰹という和名の語源は、身が堅いという意味の「堅魚(かたうお)」に由来するという説が有力で、日本では古くから食され、大和朝廷がカツオの干物(堅魚)などの献納を課していたという記録も残っているほどです。
北緯40度から南緯40度に至る全世界の亜熱帯海域に分布しており、日本には主に黒潮に沿って回遊してきます。生きている時の体は美しい青紫色ですが、興奮すると腹側に横縞が浮き出て、死ぬと横縞が消え、銀色に黒っぽい縦縞が現れて、見た目の色が変化します。同じカツオ類でも、ヒラソウダやマルソウダ、ハガツオには縞模様が出ないことから、この見た目によって区別されています。体は遊泳に適した紡錘形で、沿岸から沖合の表層を、群れを成して弾丸のようなスピードで泳ぎます。日本近海には餌を求めて来遊し、小魚やイカ類を食べて育つ大型の肉食魚ですが、マグロやカジキ類などからは魚には逆に食べられています。また、ジンベエザメや流木に群がって泳ぐことがあり、これはカジキなどからの攻撃を避けて身をまもるためと考えられています。これを漁師は「木付き」「サメ付き」などと呼び、漁の際の目印にします。特に「サメ付き」は良く釣れることから、ジンベエザメは漁師からエビスザメとも呼ばれ、大事にされています。
三陸沖では初夏に北上してきた群れが獲れ始めますが、旬は秋、南に下る「戻りガツオ」のシーズンです。三陸を中心とした東北地区の海域は、暖流の黒潮と寒流の親潮がぶつかり合う最も漁獲量の多い魚場で、一本釣りか巻き網などで漁獲され、三陸の港はこの時期、賑わいの最盛期を迎えます。三陸の秋の戻りガツオは低い海水温の影響から脂ののりも良く、春のカツオと異なり、成熟したカツオと言えます。
■鉄分やナイアシンを多く含むカツオの身は、加熱するとパサついた食感になるため、刺身やタタキで食すのがポピュラー。稲藁を燃やした火で皮ごと炙ってから冷水で締めます。初鰹は、厚めに切ったショウガ、ニンニクなどの薬味と共に口に運ぶたのが普通ですが、秋の戻り鰹は臭みがないので、薬味要らずの「鰹のタタキ」なのです。地元の人々にとっては「秋」を実感する一品です。