森が育てる海の玄米、牡蠣
森は海を海は森を恋いながら
悠久よりの愛紡ぎゆく
気仙沼市在住の歌人、熊谷龍子さんは、牡蠣が森によって育てられていることを美しい歌にしました。海水と河川水の交わる汽水域での生物を育てるには、上流の森を通過した河川水や地下水が運んでくる養分が重要です。おいしい牡蠣やホタテは、山や森や川が運ぶプランクトンやミネラルがあってこそなのです。
現在は、唐桑の牡蠣養殖家である畠山重篤氏を代表とし「森は海の恋人」というスローガンと共に、子供たちの環境教育にも尽力し、全国にその運動の輪を広げています。
■主な産地/三陸沖
■水揚げ最盛期/冬
■生態と特徴
カキ目イタボガキ科マガキ属の貝で、正式名は「マガキ」。和名の「かき」は、密集している貝を掻きとることが語源と考えられています。日本全土と東アジア全域の汽水性内湾の潮間帯から潮下帯の砂礫底で、しばしばカキ礁を作る二枚貝。通常は、岩や他の貝の殻など硬質な基盤に着生します。ホタテガイと並び、重要な養殖貝でもあります。性転換する貝として知られ、十分に栄養分を蓄えた雌が産卵し、産卵後は雄になってしまいます。つまり、栄養不足で痩せた雌が雄ということになります。着生してからほとんど動かないため、筋肉が退化して身のほとんどを内臓が占めています。
食用としての歴史は古く、日本では縄文時代以降の多くの貝塚から殻が発見されていて、室町時代頃にはすでに養殖も行われていました。ただ、かつては産地から消費地までの輸送に時間がかかったため、生食は産地以外で一般化しませんでした。日本人がカキを生で食べるようになったのは明治時代以降で、生食文化が欧米から輸入された珍しい食材です。
牡蠣の旬は冬であり、三陸では岩手県南部の広田湾と大船渡湾が、上質で旨い牡蠣の主産地とされます。味の秘訣は三陸の豊かな森にあり、森が育む栄養分を含んだ水が川を経由して三陸の海にそそぎ、牡蠣を育てます。また、ヨーロッパでは月名にrの付かない5~8月には食べないと言われます。日本では「花見すぎたら牡蠣食うな」の言葉があり、これは産卵期の生殖巣が傷みやすいためと考えられていますが、三陸では「花見ガキ」(宮古市)の名で5月まで食べられます。
ヨーロッパでは「海のミルク」、日本では「海の玄米」と呼ばれるほどの滋養強壮食品とされ、健康維持に有効とされるタウリンや、効率的なエネルギー源となるグリコーゲン、各種ビタミンなどをバランス良く含んでいます。また、殻の表面にはカミソリの刃のように薄い形状のものが重なっているため、生食で殻を持つ際には、気をつける必要があります。
■レモンや酢とともに摂取すると、ビタミンCやクエン酸がミネラルの吸収を高め、タウリンが失われるのを防ぐ効果があるとされます。一般的には生で食すほか、蒸すと濃厚な旨みが凝縮され、鍋やフライ、殻ごと焼いても美味。さらに、カキ醤油やカキ油など調味料の原料としても用いられます。